ライフログ-個人の記録と公文書について 「大震災 国の記録」
- 作者: 皆川治
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2011/12/11
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「大震災 国の記録 政治家の気迫伝わるか」というタイトルの
東京大学@加藤陽子教授の長文コラムが載っています。
http://mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20120325ddm002070132000c.html
記録を残すことの意味と重要性を学べる、すぐれた文章でした。
以下、その要旨と私の所感です。
●天災を記録し、人災を検証する義務
東日本大震災には天災と人災の両側面がある。
この二つの災害については、
要因と被害の因果関係と、救援や復興のオペレーションの経過をきちんと把握しておかないと
次に災害がおきたとき同じ間違いを繰り返す。
誰か特定の個人や国のせい、とか
未曾有の自然災害だから仕方ない、という態度では、
また災害が起きた時に、被害を徒に増加させることになる。
だから、
何が起きて、原因が何で、誰が、どのような対応をして
その結果、被害程度や救援活動がどうなったか
今のうちに記録を残しておかないと、私達は大きな教訓を無駄に逃がすことになる。
●個人の記録に焦点をあわせれば
しかし今回の震災における政府の記録の残し方は大きな問題があった。
では公的関係者が一切情報を残さなかったかというとそうではない。
加藤氏のコラムで初めて知ったが、
たまたま葬儀で帰省していた農林水産省職員の皆川治氏の「被災、石巻五十日。」
当時秘書官として仕えていた篠原孝副農相にあてて
皆川氏が毎日FAXで状況報告を送っていたこと、
石巻に残り復旧に専念すべし、と指示したこの副農相の英断を知る人は少ないと思う。
また東北方面総監部政策補佐官・須藤彰氏の「自衛隊救援活動日誌」も
同様に本省内局と現場との意思疎通に動いた多くが記録されている。
●国が取った対応の時系列な記録
これだけ政府関係者が個人的に残した記録があるのに対し、
政府が検討の経緯を議事録として残さなかったのは周知の通りである。
一番残さなければいけなかった人達が記録しなかったのだ。
そして3/9、震災後1年たって、
政府はメモや資料から再現した、議事概要を公表した。
http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120309002/20120309002.pdf
●全てでなくとも記録があったから
コラムの中で、この議事概要から
原子力災害対策本部におけるやりとりがいくつか紹介されている。
片山総務相(当時)が
「実務的オペレーションの統率はだれがとるか」をただし、
北沢防衛相(当時)は
「福島第一原発の防潮堤工事の説明責任について」を強く迫った
といった記録を、私達がどう感じるか。
・玄葉国家戦略担当相(当時)
「自民党総裁とも話した。
国が最終的に責任をもつというメッセージを出すことが大事。」
立派な発言だ。
福島の原発事故に際しての国や東電の対応が十分であったとは
誰も思わない。
しかし概要だけでも残したから、どのような検討があったか
あとで知ることが出来る。
そして東京電力はいまだ事故の原因や対策に関する情報を開示していない。
いち民間企業だから公表の義務が無い、と言える話ではない。
公共性の高い事業だから尚更だが
全ての企業が社会の関係性の中で何らかの機能を果たしている以上、
自社の事業やサービス提供に関する記録を残し、
特許や技術情報を除き、必要に応じて開示するのは当たり前のことだ。
1年たって、議事概要だけだが再録して公表した国と、
全て隠そうとする東電。
どちらがを多少なりともまっとうな手続きを踏んでいると人々が感じるか
容易に判断できるはずだ。
●クラウドがいくら発達しても
クラウド時代。
記録を残すためのツールやインフラはどんどん発達していき
多くの人がスマートデバイスを活用してライフログを残している。
官はどうか。
自治体クラウドの話題を頻繁に耳にする。
しかしLG-WANはじめ、今まで自治体のシステム共通化は悉く失敗してきた。
インフラだけが発達しても、記録を残す意志がなければ無駄に終わる。
当事者が記録を残す意味をどう理解するかが成功要因だ。