「なんとなく悪そうな人」という印象が犯す間違いについて

任命後たった2週間で法務大臣が更迭された。
そして後任に選ばれたのが、前回もう年だからとやめていった前法務相
二度ならず三度過ちの人事を犯す総理に、大きな疑問の声がわいている。

●小川元法務大臣

しかし自分がこの騒ぎから理解したことは、
前々回の法務大臣人事の経緯から小川敏夫・元法務大臣に対して
何の根拠も無く「悪い人」という印象を持っていたことだった。
なぜ悪い印象をもったのか。
週刊誌の中吊りである。
元妻の女優に対してのDV云々。

今考えれば明らかに、
陸山会事件をめぐる虚偽報告書問題」について
検察大甘の処分でお茶を濁そうとする人たちが
それに疑義を唱えた当時の小川法相を追い落とそうとして
リークしたものだと察しがつく。
(「法務大臣人事の怪」http://blogos.com/article/48997/?axis=p:0

そうした事情を知らずに電車で中吊りを見れば
「妻にDVふるう男だったのか」「なんか悪いやつなんだ」
という印象だけが残る。

ネット上のなりすましによる複数の誤認逮捕と、
検察/警察の自白誘導が大きな問題として発覚した今、
・まともな法務大臣が誰だったのか
・週刊誌の中吊りに自分の印象がミスリードされていた
ことを知った大臣人事の顛末であった。

●橋下大阪市長

ツイッターや各種メディアでの舌鋒鋭い話しぶりやマスコミとの論争、
中吊りの派手な見出しから、この人を毛嫌いする人が
周囲に少なからずいる。

しかし橋下市長が変革が必要だと訴えていることと
その根拠や現実は「体制維新」を
読んだ人でなければ分らないだろう。

体制維新――大阪都 (文春新書)

体制維新――大阪都 (文春新書)

そして新書にしてはボリュームも内容も濃いこの本を手にとって読む人よりも
電車の中吊りを見て「嫌なやつだ」と思う人の数のほうが
圧倒的に多いに違いない。

●東電OL殺人事件

10年以上もたって無罪が確定したこの事件も
容疑者が「印象」で逮捕、有罪になったものだ。

大企業の女性社員が殺されたという事件に際して
アジアからの出稼ぎ労働者という、最も犯人に特定しやすい人物で
なおかつ犯人を見出さないと検察の面子が立たないという状況下で
仕立てられたことが判明するまで、あまりに長い時間を要した。

(現場の鍵を保有していたとか、被害者と交渉があったとか
疑いやすい点があったのも事実だが)

●私達の間違いやすさについて

私たちが人に対して持つ印象はちょっとしたことでミスリードされやすい。
深く考えて判断するより以前に、
エキセントリックな惹句や行動の断片に左右されてしまうのだろう。
そしてマスコミが伝える報道はどうしても人目を引きやすいネタや
特定の印象論に誘導しようとするものが多い。

でもそうした表面的な印象で安易に決めた人物評価は
思いがけない不利益をもたらす。
政治や司法の世界にあってすら、大きな間違いを犯すのだ。

上に上げた3例は、いずれも「なんとなく悪そうな人」という
情報がミスリードしたものだ。
伝えられる情報の表面的な印象でものごとを判断することの誤りの深さを教えてくれる、
生きた事例である。