きれいな色の服を着せるひと

かれこれ20年ほど前のことですが、当時都営新宿線を通勤に使っていました。
小田急線の新宿駅をおり、7時半ごろに乗り換えていたのですが、
都営新宿線を降りて逆に別の路線に乗り換えていく若い男性と、
毎日すれちがいました。
男性は白い杖をついていました。

仕事に向かうのだと思いますが、通学だったのかもしれません。
20代半ばと思われるその男性は、毎日とてもきれいな色の、
清潔感のある服装をしていました。
グレーや紺のジャケットに、中のシャツは透明感のある薄いピンクや
オレンジ、ブルー等で、時折シャツの色と合わせたポケットチーフを
差していることもありました。

奥さんか、お母さんかお姉さんか。
毎日服を選び、組み合わせているどなたかの、
深い愛情と優しさを感じる服と佇まいでした。

もちろんご本人の趣味かもしれないし、
着せているのはお父さんかお兄さんかもしれず、知るすべもないのですが
毎朝この男性を見かけるたびに、早朝の通勤で不機嫌な自分自身に気づいて
ハッとさせられるのでした。

一度考え事をしていてぶつかりそうになり、お詫びしたこともありました。

いつも思ったのです。
この男性は、自分がこんなきれいな服装をしていることに気づいているのかと。
むろん気付いておられるのでしょうが、それはどんなイメージで
捉えられているのだろうかと。

誰かの無私の愛情を視覚化する印象的な情景に出会い、
いまでもこのことを忘れられません。