つなげる力 和田中の1000日

和田中の1000日 つなげる力 (文春文庫)

和田中の1000日 つなげる力 (文春文庫)

●大震災のおきた2011年と「つなげる力」

今年明らかになったことを集約すると下記の二点になると感じています。
ひとつは「旧いものが壊れていく」
もうひとつは上記に含みますが
「時代や社会の動きを伝えるべきマスメディアの終わり」、です。

●成熟社会とつなげる力

本書は東京都で初の民間出身校長となった藤原和博氏の
和田中学における様々な試みとその過程を語ったものです。

成績の良い子供、平均的な学力の子供、勉強が不得意な子供、
それぞれに対する学習補助の機会提供から、
これからの成熟社会を生きていくために最も必要な
クリティカルシンキングリテラシー」「情報編集力」を養うための
「よのなか科」の授業の推進と子供たちの反応。
旧態依然の反応ゃ無根拠な批判をしたマスコミや教育委員会、校長たちについて。

新しい授業を支えるために地域の大人や学生を巻きこんでの運営の中で
中学生だけではなく、多くの人達がやりがいや人間関係を得たこと。

これから社会にでていく中学生から既に仕事をリタイアした大人まで
様々な事象や人間をつなげる力こそ、問題解決の糸口を見出し推進する能力となること。

こうした内容が授業のコンテンツの一部紹介を含めて語られていきます。

かつての規格型大量生産の時代には、より多くの正解を記憶することが評価軸でした。
しかし現在のように変化が激しい時代には既に賞味期限切れの答えをたくさん暗記しても
何の意味もありません。
自ら課題設定し、解き方を見出し、行動して結果をフィードバックし
修正する思考力がなければ、価値や貢献として成立しません。

授業の対象自体は中学生ですが、彼らをとりまく大人たち、
今の「よのなか」を構成している大人たちに向けても訴求する内容です。

●旧いものを壊す

今年は電力(エネルギー)供給のインフラのあり方、
輸出依存型の製造業の不振と凋落、
震災や政治の出来事を伝えるマスメディアの機能不全があまりに
明確になった年でした。

そして11月の大阪W選挙。
既得権益を守るために従来の枠組みとやり方を最優先し
結局何も変えられない既存勢力と体制に対して
大阪市民の6割が「ノー」といった意味は
霞が関の政治家たちが思っている以上に大きいと思います。

法律も体制も、明治から戦後の占領時代に出来たものを
日本は今の今まで後生大事に守ってきました。
一部の人の利益を守るために。

しかし。
価値をなくした既存の体制ややり方はもう通用しないでしょう。

原発による汚染という取り返しのつかない失敗、
東北地方の復興、
円高や洪水、売るものがない製造業。
言葉じりを捉えて足の引っ張り合いをする政治家たち。

今までのやり方や考え方を無条件に信じてはいけない。
今あるもののほとんどは既に壊れているのかもしれない。
マスメディアの伝える情報は「超断片」でしかないのかもしれない。

こうした環境下で必要なのが、藤原氏の言われる
クリティカルシンキングリテラシー」「情報編集力」だと思うのです。

藤原氏の著書は随分読んできました。
しかし今年ほど、氏が取り組んできたこと・変えてきたこと・広めようとしていることが
大人から子供まで全ての日本人に必要だと思えたことはありません。